捻挫(ねんざ)と靭帯損傷

定義
関節を構成する関節包や報帯は、関節の生理的な運動を維持・制御し、関節の可動を安定させる支持組織です。この支持組織に対して、生理的な可動域を越えた範囲や生理的な方向以外の外力の強制により損傷し、関節面相互の位置関係は正常に保たれている状態を捻挫sprainと定義されます。

「捻挫」という病名は包括的概念ですが、一般的には靭帯の部分(不全)損傷を伴う軽・中等症例ととらえられています。主要鞭帯の完全損傷が明らかな重症例の場合は、靭帯損傷ligament injuryという病名で、捻挫とは分けて位置づけられます。

症状・診断
受傷直後は疼痛(自発痛、圧痛)と軽度の機能障害が主な症状です。 その後次第に内出血・浮腫によって腫脹が発生します。 受傷機転と同方向の力が加えられる事で疼痛の誘発がより著明になります。また、X線撮影による骨折の有無確認は必須の検査になります。 重症例では関節の異常動揺性が認められます。MRIや超音波検査は有力な補助診断法ですが、損傷の程度を検証するにはストレスX線撮影が簡便かつ有用な検査になります。

治療・予後
受傷直後は RICE処置を行います。その後の治療は病態や重症度によりますが、保存療法が一般です。損傷された関節包や靭帯の修復に要する期間は通常3週間前後とされ、この期間は関節に受傷機転と同様の負荷がかからないように固定·免荷することが治療の基本となります。軽症例では、疼痛・腫脹も軽度で、2週間前後湿布・弾性包帯固定により高い確率で治癒が望めます。特定の方向へのストレスで疼痛が誘発される中等症例では、2~4週間の適切なシーネ(副木)固定、あるいは足関節装具固定を要し、治癒に2~3カ月を要します。異常動揺性を伴う重症例では、3~6週間のギプス固定が必要になりますが、長期固定は関節機能の低下につながるため、手術を考慮することもあります。中等症,重症例の治療がなおざりにされて異常動揺性が残存すると、その後のADL障害や変形性関節症発症のリスクを高めることとなり、このような場合には靭帯再建術を行います。

競技復帰(リコンディショニング)
競技復帰に向けては、急性炎症軽減・関節機能回復・基本動作獲得・スポーツ動作獲得の順および一部並行して実施していきます。急性炎症軽減期はRISE処置・固定・物理療法により、炎症の軽減・再受傷防止・組織修復促進を行います。関節機能回復期では、関節可動域拡大と筋力回復を目指します。関節固定や関節周囲筋スパズムの影響で可動域制限が認められることが多く、温熱療法による関節拘縮改善・関節を構成する軟部組織の滑走性改善、関節周囲筋の柔軟性向上による可動域改善は、競技復帰後も重要な作業となります。筋力強化は、単関節から多関節へ、等尺性収縮Isometric Contractionsから等張性収縮Isotonic Contractionへ、開放運動(OKC: Open Kinetic Chain)から閉鎖運動(CKC: Closed Kinetic Chain)へ段階的に負荷を高めていきます。基本動作獲得期では、関節機能回復に併せて、スポーツ動作再開に必要な基本動作訓練を開始します。まずは非荷重で回復した機能を荷重動作に反映させ、両足動作から片足動作へ、その場動作からダイナミックな動作へ段階的に実施します。ランニング、ステップ、ジャンプも両脚から片脚へ、一方向から前後左右多方向へ、回転・方向転換しながら、段階的に調整しながら実施します。

また、再発防止トレーニングも並行して行います。関節捻挫の受傷後には靭帯や筋肉の固有受容覚が低下している為、不安定な姿勢や視覚フィードバックの遮断、支持面の縮小などで、神経協調性エクササイズの強度を高めていく事が必要になります。スポーツ動作獲得期は、基本動作獲得で習得した動きを、各競技での条件や環境に適応させ、パフォーマンス回復や再発予防も考慮したプログラムを実施します。競技特性を反映する条件としては、非予測、対人、コンタクト、不安定面、用具の使用などが挙げられ、動作中にこれら単独の要素を付与することから開始し、より複合的な条件下に発展させます。再獲得すべき体力としては、瞬発力、持久力、敏捷性なども重要な要素になります。

競技復帰から復帰後において大切な事は再発予防になります。捻挫の予後では、関節弛緩性が残存することで再受傷のリスクになります。関節ユニットに対して、受傷機転と同方向にストレスがかからないように、関節の動きを安定させる筋力の強化が必要になります。また、受傷の原因となった動作や姿勢の改善、アライメントの改善、競技スタイルの変更、力やスピードを補う技術の向上は、再受傷を予防するだけでなく、パフォーマンス向上においても重要な要素になります。

<参考文献>
標準整形外科学 第14版  井樋栄二 吉川秀樹 津村弘 田中栄 高木理彰
アスレティックリハビリテーション 第2版  福林徹 武冨修治
公認アスレティックトレーナー専門テキスト 第6巻 予防とコンディショニング
公認アスレティックトレーナー専門テキスト 第7巻 アスレティックリハビリテーション

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